正確かつ効率的な算定が可能に
——CSPがe-dashのソリューションを導入した経緯を教えてください。
新井CSPは「仕事を通じ社会に寄与する」「会社に関係するすべての人々の幸福を追求する」という2つの理念を掲げ、安全・安心な社会づくりに向けて事業を展開しています。地球が温暖化という危機的な状況に直面する現在、当社にとって環境への配慮は喫緊の課題であり、マテリアリティー(重要課題)の一つと捉えています。実際、ゲリラ豪雨で警備機器の警報が多発し、社員の業務負担は大きくなっています。そこでGHG排出量削減に向けた中長期計画を策定しました。2019年度を基準に、27年度までにScope1とScope2のGHG排出量を50%削減、45年度までにゼロとする目標を掲げました。その達成に向け、脱炭素への取り組みを加速するため、22年にサスティナビリティ委員会とサスティナビリティ推進室を設置しました。
青島まずは自社のCO2排出量を正確に把握しなければいけないと考えました。実は当初サスティナビリティ推進室で独自にCO2排出量を算定していたのですが、時間も手間もかかり、作業負担も大きい。集計した排出量の正確性にも懸念がありました。そこでいくつかのCO2排出量可視化サービスを比較検討したのですが、e-dashは電気やガスなどエネルギーの請求書をアップロードするだけで排出量の算定ができ、グラフ作成などの操作性に優れていました。算定方法は国のガイドラインに沿ったものであり、GHGプロトコルに沿った算定も可能です。サポートもとても充実しており、コストパフォーマンスの高い点も魅力的でした。そこで22年12月からCO2排出量可視化クラウドサービス「e-dash」を導入し、今年2月にはグループ10社にも導入を拡大しました。

新井 裕氏 セントラル警備保障 警務本部 警務総括部 兼管理本部サスティナビリティ推進室(右)
青島 淳子氏 セントラル警備保障 管理本部 経営企画部 兼サスティナビリティ推進室(左)
——CSPのように、GHG排出削減に向けた取り組みを加速する企業は増えていますか。
藤井22年4月から東証プライム市場上場企業は気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられ、同年11月には有価証券報告書でサステナビリティー情報の開示が義務化されました。こうした背景から、GHG排出量の開示・削減に経営課題として取り組む企業は加速度的に増えています。
しかし、まだまだ多くの企業が悩みながら取り組みを進めているのが実情です。
排出量の可視化については、表計算ソフトなどを用いて取り組む企業も多いですが、手入力による手間やミスの発生が現場の負担になっているという声を多く聞きます。CSPのように拠点数の多い企業ではなおさらです。
また、可視化だけで達成感を覚えてしまったり、排出量削減目標を掲げても具体的にどう削減に落とし込むかに難しさを感じていたりする企業も多いです。
こうした企業の悩みを解決するのが、e-dashの役割です。まずはクラウドサービスでCO2排出量の可視化を効率的に行うことから始めていただき、その後は社内のコンサルタントがワンストップで削減実行まで伴走支援をしています。可視化で終わらせず、確実に次のステージに進んでいただけるようにすることが非常に重要だと考えています。
——可視化から削減へという話がありましたが、27年度の削減目標の達成に向けて、CSPでは具体的にどのような取り組みを進めていますか。
新井e-dashにもご提案いただきながら、警備現場で使用する業務車両を電気自動車(EV)などの脱炭素車へシフトを進めるなど、省エネ強化や再エネ導入の取り組みを加速しているところです。ただし再エネ導入には課題もあります。
例えば、ビルなど警備対象施設に設置したセンサーが異常を検知すると、監視センターに警報が届き、警備員が現場へ急行して初期対応を行う機械警備では、緊急出動が多く、常に稼働できなければいけません。しかしガソリン車とは異なり、EVは充電に時間がかかります。フル充電状態をいかに維持できるかが課題です。重要なことは、お客さまに安全・安心をきちんとお届けすること。ビジネスに支障を来さず、どうやって排出削減につなげていくか。それはすべての企業に共通する課題でしょう。
今泉確かに今、再エネ比率を上げながらCO2排出量を削減していくことが求められています。ただし、それによってコストが増加し、経済活動が滞る状況になっては本末転倒です。e-dashは各種再エネ調達を得意としており、三井物産グループのネットワークも活用可能です。コスト削減の観点も踏まえながら、アドバイザリーとして各社に最適な提案ができると自負しています。

焦点はScope3
——近年Scope3が焦点となり、企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体のGHG排出量削減が求められています。
新井最近、大企業や外資系企業などから、GHG排出量に関する問い合わせやアンケート依頼が来るようになりました。今後、当社も含め、排出量削減にきちんと取り組む企業以外は取引できないという方向へと進んでいくでしょう。グループ企業にe-dash導入を広げたのは、操作の容易さや優れた機能もありますが、グループ全体のGHG排出量の可視化・削減を加速して中長期計画を達成し、サステナブルな社会の実現に貢献していくためです。
青島CSPはセキュリティーサービスを提供する側なので、お客さまから開示を求められると同時に、協力企業やサプライヤー側には開示をお願いする立場でもあります。脱炭素社会に向け、カーボンニュートラルを進める上で、協力して取り組むことが大切だと考えています。
今泉Scope3を算定したいというお客さまのニーズは急速に増えてきていると感じます。e-dashではScope3算定のクラウドサービスも提供していますが、Scope3は算定対象カテゴリの選定や算定ロジックの定義づけが難しく、企業が自社だけで取り組みを始めるのはハードルが高いのが現実です。こうしたニーズに応えるため、e-dashでは、監査法人などでScope3算定に専門的に取り組んできた社内のコンサルタントによる算定コンサルティングも提供しています。CSPに対しても、警備機器の製造から流通、廃棄に至るまでのサプライチェーン全体のCO2排出量など、Scope3の算定をお手伝いさせていただいたところです。

今泉 覚氏 e-dash ソリューション&アドバイザリー部 部長(右)
藤井 綱良氏 e-dash カスタマーサクセス部(左)
今後は排出削減貢献量の算定も
——現在、GHGプロトコルの改定作業が進んでおり、開示方法のルールも流動的です。
青島算定基準や開示ルールが定まっていない状況にあるのは確かですが、その動向にかかわらず、排出量削減と情報開示への対応は、企業活動において必須条件です。できることから進めるしかないと考えています。
今泉算定基準や開示ルールの変更は、e-dashでキャッチアップして標準のプラットフォームに反映していきます。26年度には排出量の取引制度が始まり、28年度に炭素賦課金もスタートします。今後はカーボンクレジットを使って排出量を埋め合わせするカーボンオフセットも増えていくでしょう。我々の強みはそうしたルールや仕組みを熟知している専門家がいること。お客さまのニーズに応じたサービスメニューを順次増やしていきます。
——今後の展望、目標を聞かせてください。

青島CSPは21年に警備員の制服をリニューアルしました。制服はサステナブルな素材で作り、ほぼ100%リサイクルしています。これにより年間1トン程度の廃棄物削減を実現し、CO2排出量の削減にもつなげることができました。こうした先進的な取り組みによるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を通じて、企業の魅力向上につなげていきたいと思っています。
今泉現在はScope3が注目されていますが、一方でGHG排出削減の貢献量という考え方が広がりつつあります。CSPがユニフォームをリサイクルにしたときの排出削減貢献量を算定して開示すれば、対外的なアピールになるでしょう。こうした先進的な活動について、GHG排出削減の貢献量を一緒に算定する仕組みを構築して、情報開示につなげられればうれしいですね。
新井CSPは事業そのものが社会貢献であるという考えが根底にあります。排出量だけをみたら、事業活動を止めれば、ゼロになる。しかし、それでは意味がありません。脱炭素も社会の安全・安心も両立し、持続的成長と企業価値向上に向けてサステナブルな取り組みを推し進めていきます。引き続き、伴走支援をお願いします。
藤井脱炭素の道はGHG排出量の算定がゴールではありません。e-dashは算定の先にある排出量削減に向けて、具体的なアクションに必要な提案、サービスを提供していきます。CSPグループのカーボンニュートラル達成に向けた取り組みのベストパートナーとなるべく、努めていきたいと思います。
