Story導入事例

脱炭素を「コスト」から「ビジネスチャンス」へ。企業の意識を変えた『やまがたGX経営塾』

2026.05.10

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    山形県環境エネルギー部 環境企画課
    カーボンニュートラル・GX戦略室
    主事 木村孝平 様

    ※所属・役職は取材当時(2026年2月)のものです。

    山形県は、2050年までの温室効果ガス実質排出ゼロを目指す「ゼロカーボンやまがた2050」を掲げ、着実な歩みを進めています。しかし、県内排出量の約3割が産業部門、その大半を占める「製造業」の脱炭素化は避けては通れない課題でした。

    「脱炭素経営を負担やコストではなく、収益改善やビジネスチャンスと捉えていただきたい」

    そんな山形県の想いを形にしたのが、県内金融機関3行(株式会社山形銀行・株式会社荘内銀行・株式会社きらやか銀行)と一体となって取り組んだ、製造業対象の「やまがたGX経営塾」です。

    脱炭素経営に関する知識の習得にとどまらない独自のカリキュラム、そして参加企業の意識を変えた本事業について、担当者の木村孝平様にお話を伺いました。

    目次

    排出量の3割を占める「製造業」を、供給網で生き抜く“競争力”の源泉へ

    ━━山形県において、産業部門の脱炭素支援が重要だと考えられた経緯についてお聞かせください。

    木村様(以下、木村):「ゼロカーボンやまがた2050」の目標達成には、県内の排出量の約3割を占める産業部門への施策が欠かせません。山形県は、全国平均と比べて「製造業」の割合が高く、多くが大手企業のサプライチェーンに組み込まれています。

    2026年度からの排出量取引制度の導入や、大手企業を中心にサプライチェーン全体で脱炭素化を進める動きが広がっていることから、県内企業に対しても脱炭素経営の要求が高まることが想定されます。県内企業の脱炭素化を進めるとともに、サプライチェーンの脱炭素の要求に応え、取引機会を喪失しないためにも、「競争力の強化」が必要だと考えました。

    製造業はエネルギー消費が電気や重油、灯油に集中しており、例えば、CO₂フリー電力への切り替えや省エネ型の設備更新による脱炭素化のポテンシャルが最も高い分野でもあります。こうした理由から、まずは製造業を対象に事業を開始することにしました。

    ━━県として支援を推進する中で、どのような課題を感じていましたか。

    木村:県内企業を対象としたアンケートでは、排出量取引制度などの最新情報や脱炭素に関する動向、「なぜ、脱炭素経営に取り組む必要があるのか」という意義、「どのように脱炭素経営に取り組むのか」などのノウハウが不足していることが分かりました。脱炭素経営は「負担やコスト」と捉えている企業が多い状況の中、いかに必要性を理解していただくかが一番の課題だと感じていました。

    知識の習得だけでは終わらせない!「経営塾」という挑戦

    ━━そこで企画されたのが「やまがたGX経営塾」です。あえて全4回の講義形式で「経営塾」というスタイルを選ばれた理由は?

    木村:これまでもセミナーを開催するなど、情報提供の機会を設けてはおりましたが、個別の企業に対して集中的な支援はしていませんでした。

    脱炭素経営に必要なのは「知る」「測る」「減らす」の3ステップです。これらを深く学ぶには、数時間のセミナーでは伝えきれない部分があります。「経営塾」として集中的に取り組むことで、より深い理解が得られるのではないかと考えました。

    ━━「やまがたGX経営塾」という名前にはどんな想いを込められたのですか。

    木村:排出量を削減する「守りのGX」と新たなビジネスに繋げる「攻めのGX」の両輪を学び、脱炭素経営は「収益改善」や「ビジネスチャンス」になると捉えていただきたいとの想いから名付けました。

    以前e-dashさんの記事でも紹介されていた県内の酒造会社「株式会社小嶋総本店」のように、カーボンニュートラルのお酒を造って世界で認められ、新たな販路を開拓し、脱炭素をビジネスチャンスに変える。そんなモデルケースをどんどん増やしていきたいというのも狙いの1つです。

    【「やまがたGX経営塾」の概要】

    山形県内の製造業を対象に、脱炭素経営を「収益改善」や「ビジネスチャンス」に繋げることを目的とした、全4回の実践的な学習・ワークショッププログラムです。

    参加企業は、クラウドサービス「e-dash」を用いて自社のCO₂排出量(Scope 1・2)を可視化。その算定データをもとに、脱炭素の必要性の理解から、具体的な削減施策の検討、自社の削減目標・計画の策定までをワンストップで実施しました。

    山形県と県内金融機関3行(株式会社山形銀行、株式会社荘内銀行、株式会社きらやか銀行)が密に連携して伴走支援を行い、県内の製造業14社が参加しました。

    関連リリース
    https://e-dash.io/news/post-3021/

    自らも学びの当事者へ。地銀3行と県が築いた、かつてない「結束」の形

    ━━本事業は県内の金融機関3行(株式会社山形銀行、株式会社荘内銀行、株式会社きらやか銀行)と連携されています。金融機関にはどのような役割を期待されたのでしょうか。

    木村: 企業と日常的にコミュニケーションをとっている金融機関は、「どの企業に脱炭素経営を取り組んで欲しいか」という情報を、県よりも多く持っています。経営塾を開催するにあたり、各企業への参加の呼び掛けや、参加企業のサポートを担っていただければと考えておりました。

    そのおかげで、ほとんどが金融機関からのご紹介をきっかけに応募してくださり、当初想定していた10社を上回る14社にご参加いただきました。脱炭素経営にもともと関心があった企業もあれば、「普段お世話になっている銀行さんから声をかけてもらったから」と、信頼関係から応募してくださった企業もありました。県の声かけだけではこれほど多くの企業を集めるのは難しかったのではないかと思っているので、皆様には非常に感謝しています。

    ━━積極的に協力してくださったんですね。

    木村:はい。金融機関の皆様も脱炭素経営の推進には非常に前向きで、「やるなら県と銀行が一体感を持って取り組んだ方がより効果的だ」というお声もいただいていました。経営塾には、各行の担当者の方が毎回来てくださいましたし、「行員向けにも脱炭素の勉強会を実施して欲しい」というご要望をいただき、e-dashさんのご協力により開催させていただきました。

    銀行側も自ら脱炭素を学び、企業と同じ目線でともに学ぼうとしてくださった。この地銀3行と県がまさに一丸となって取り組めたことが、参加企業への安心感に繋がり、事業の成功を後押ししてくれたと感じています。

    「明日からやる」という熱量に変わった『経営塾』全4回の軌跡

    木村様(左)、e-dash株式会社 柴田(右)

    ━━ここからは本事業に伴走したe-dashの担当者・柴田とともに、経営塾のカリキュラムを振り返っていただきます。

    【第1回】カードゲームで体感する「共創」の重要性

    柴田(e-dash):参加企業14社の顔触れは非常に多様でしたね。年齢もさまざまで、経営者の方もいれば、部長クラス、工場長、初回には会長職の方までいらっしゃいました。

    木村:そうですね。その初回では、「カーボンニュートラルを体験する」と題し、参加企業の顔合わせとアイスブレイクも兼ねて、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」に取り組みました。この日は、山形県学生環境ボランティア「やまカボ・サポーター」の学生にも参加いただき、非常に賑やかな時間となりました。

    柴田:木村さんにも「政府役」で参加いただきましたが、いかがでしたか?

    木村:正直「難しい」と感じましたね。カーボンニュートラルと経済成長を両立させるには、自分だけ、政府だけの力ではなく、さまざまな企業や金融機関などの組織、そして個人、みんなの力を合わせることが重要なのだと身をもって感じました。

    第1回の様子

    【第2回】「守り」と「攻め」の事例から、脱炭素の必要性を知る

    柴田:第2回では、「企業が脱炭素経営に取り組む必要性を知る」と題し、事例紹介などを本格的に行いました。株式会社つなぐの伊藤様には「守りのGX」、株式会社児玉ゴム商会の児玉様には「攻めのGX」をテーマにお話いただきました。

    木村:児玉さんが紹介されたバレーボールの廃材でポーチを作る取り組みをはじめとした端材アップサイクル事業については、皆様、特に関心を持っていらっしゃいましたね。「自分たちも何か端材でできないか」という方もいらっしゃって、製造業に絞ったからこそ共感し合えるところがあったのも面白かったです。

    【第3回】具体的な削減アクションと、企業価値向上の繋がりを学ぶ

    柴田:第3回では、「具体的な削減アクションを知る」と題し、削減策のインプットを中心に展開しました。省エネ・再エネの取り組み方に加え、カーボンクレジットを活用したカーボンオフセットなどの削減手法を学びました。また、エコアクション21や中小企業版SBT認定といった開示に関する諸制度についても学んでいただきました。

    木村:中でも、エコアクション21をきっかけに、自社の環境負荷低減と社会への環境貢献を両立する環境経営を推進している山形パナソニック株式会社には、どのような道のりで削減に取り組んできたのかを丁寧にお話いただいた上で、脱炭素経営が社会的評価の獲得や社員の意識向上といった企業価値向上に直結することを伝えてくださったので、参加企業の皆様に刺さりやすかったのではと思っています。

    【第4回】「明日からやる」という熱量。自社の削減計画を策定

    柴田:最終回は、事前にe-dashの算定サービスで可視化した自社のCO₂排出量データをもとに、ワークショップ形式で「自社の削減目標と計画」を立案していただきました。気候変動によるリスクと機会を分析する「TCFD」の考え方も取り入れましたが、多くの企業が「取引先からの要請」を最優先事項に挙げていたのが印象的でした。

    木村:そうですね。参加企業の約半数が、実際に「取引先から環境に関する取り組みについて開示要請を受けている」という切実な状況もあり、今すぐにではないにせよ「着手に踏み出さなければならない」というのは、講義を通じて皆様に深く浸透したのではと感じています。特に、ワークショップの30分間、皆様がひたすらペンを動かし、凄まじい集中力で個人ワークに取り組まれていた姿が目に焼き付いています。

    柴田: 最後の発表でも、皆様かなり具体的に自社の展望を述べられていましたね。

    木村:自身の経営状況と自社の排出状況をしっかりと照らし合わせ、実効性のある計画に落とし込めていました。「明日からすぐにやるぞ」という熱量、真剣度合いを感じましたね。ワークショップの中で「温度管理の大変さ」などといった製造業共通の悩みで打ち解け合えたのも、この経営塾ならではの光景だったと感じています。

    柴田: 最後に木村さんから「計画書を持ち帰って上司や会社に報告するところまでをゴールにしましょう」と力強くお話しされていたのが非常に印象的でした。

    木村:業務ご多忙の中、全4回にわたって参加いただいたので、単なる学びで終わらせず、必ず実際の取り組みに反映してほしいという強い思いがありました。経営塾で得たノウハウを、少しでも自社の事業価値を高めるために活かしていただきたい。そんな期待を込めてお話しさせていただきました。

    8割が「実行可能」と回答。確かな手応えを山形県全体のビジネスチャンスへ

    ━━修了後のアンケート結果からも非常に高い手応えが伺えます。

    木村:大変嬉しいことです。担当の柴田さんをはじめ、e-dashの皆様には打ち合わせや方向性の擦り合わせを非常に細かく行っていただき、私たちの要望にも最大限対応いただきました。そのおかげで、当初の想定以上の事業効果を生むことができたのではないかと思っています。

    柴田: 私たちe-dashとしても、木村さんとともに、志を高く持つ山形県内企業の皆様のサポートをさせていただけたこと、大変光栄に感じています。ありがとうございました。

    ━━今回の成果を踏まえ、今後の展望をお聞かせください。

    木村:経営塾を経て、参加企業からは「他社の事例やさまざまな制度を学ぶことができた」「今後取り組むべき方向性が明確になった」など、多くの方から満足のお声をいただきました。今回の成果やいただいたご意見を踏まえて内容をさらに改善し、次年度以降も継続していきたいと考えています。また、セミナーの開催や具体的な取り組みに関する支援についても、他部局とも連携しながら、企業の皆様を後押ししていきたいと考えています。

    ━━最後に、県内企業の皆様へメッセージをお願いします。

    木村: 「やまがたGX経営塾」に参加された皆様、業務ご多忙の中、参加いただきまして誠にありがとうございました。これを機に脱炭素経営に向けた確かな第一歩を踏み出し、ぜひ、新たなビジネスチャンスを切り拓いていただきたいと思っています。

    「やまがたGX経営塾」は今後も継続して取り組んでいきたいと考えています。今回参加されなかった企業の皆様も、参加をご検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。

    山形県庁(山形県山形市)

    企業情報

    会社名

    山形県

    所在地

    〒990-8570 山形県山形市松波二丁目8-1

    業界

    • 自治体

    事業内容

    35の市町村があり、人口は約99万人(2026年2月現在)。全国屈指の「温泉王国」であり、さくらんぼ等の果樹栽培も盛ん。また、古くから「ものづくり」の精神が根付いており、高い技術力を持つ製造業が県経済を牽引している。

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