
須坂市役所 産業振興部 産業連携開発課 村石保様 / photo by 安徳希仁
カーボンニュートラルに向けた動きが社会全体で加速するなか、「2050年ゼロカーボンシティ」を宣言した自治体は2023年6月末時点で973にのぼります(※1)一方で、こうした自治体の頭を悩ませているのが、地域のCO2排出量の多くを占める事業者への脱炭素支援のあり方です。
そんな中、長野県須坂市では、自治体と地方銀行、e-dashの3者がタッグを組み、地域企業の脱炭素支援を行うという、画期的なプロジェクトが進行しています。
この取り組みは、いかにして生まれたのか。そして、その成果はーー。
プロジェクトの立役者である須坂市役所 産業振興部 産業連携開発課 村石保様にお話を聞きました。
※1:環境省「地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況」
https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html
本プログラム参加企業へのインタビューはこちら

───市内の企業の脱炭素支援に取り組み始めた背景を教えてください。
村石保様(以下、村石):政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、世の中の流れが一気に脱炭素に向かうなか、当課でもごく自然に「脱炭素」というキーワードが出てきました。
私たち産業振興部 産業連携開発課は、製造業支援や、製造業と農業・商業・観光などとの産業連携に力を入れています。
その製造業ですが、他の業界と比べてもエネルギー使用量が多く、脱炭素への対応を最も求められている産業の一つです。それゆえに、須坂市が発出した「2050年ゼロカーボン宣言」においても、達成の鍵を握っています(※2)。
ですから、まず製造業への脱炭素支援を検討し始めました。
しかし、これまでの市がやってきた企業向けの脱炭素施策といえば省エネの呼びかけくらいで、「一体何から手をつけていいのか」と暗中模索する時期が続きました。
たとえば、脱炭素の施策として、市内企業と連携して市内に水素ステーションを設置することも考えられます。しかし、いきなり大がかりな予算が必要な取り組みをするのはやはりハードルが高い。また、一口に製造業と言っても、扱う製品も異なり、大手から中小まで様々な規模の企業があるなかで、多くの企業を共通して支援できるような施策はなかなか思いつきませんでした。
※2:須坂市は2022年2月、長野市や千曲市など8市町村と共同で「2050年ゼロカーボン宣言」を発出しました。
https://www.city.suzaka.nagano.jp/contents/event/event.php?id=17035
──e-dashには、当社の提携先(※3)である八十二銀行さんのご紹介でご連絡をいただきました。
村石:八十二銀行さんとは日頃から情報交換をさせていただいており、その中でe-dashさんのことを知りました。
実のところ当時の私は、企業はすでに自社のCO2排出量を把握しているとばかり思っていました。しかし、e-dashさんや八十二銀行さんから「ほとんどの企業がまだその段階まで進んでいない」と聞き、正直驚いたのをよく覚えています。
と同時に、これまでは排出量削減にまつわる施策ばかり検討していましたが、「実は企業が求めている施策はもっと手前にあった」ということに気付かされました。
こうした経緯から、まずは脱炭素の最初の一歩であるCO2排出量の「見える化」の支援から始めてみようと方針が固まり、e-dashさん、八十二銀行さんと連携してプログラムを実施することになりました。
【プログラムの内容】
市内の製造業5社が2022年10月からの半年間、e-dashのサポートを受け、Scope 1・2(自社のCO2排出量)の可視化および削減施策の検討に取り組みました。費用は須坂市が負担し、八十二銀行が市内企業への声かけをはじめ全体の進行に協力しました。
プログラム期間中は、参加企業5社で構成する「須坂カーボンニュートラル研究会」(以下、研究会)が開かれ、参加企業が脱炭素の進捗を定期的に共有しました。
2023年9月からはプログラム第2期が始動しています。
※3:e-dashは八十二銀行と同行の取引先企業のCO2排出量の可視化・削減を支援する業務提携を結んでいます。
プログラムのスキーム図
──「自治体 × 地銀 × e-dash」で実施する企業向け脱炭素支援プログラムは、当社にとっても初めての試みでした。須坂市は、3者連携にどのような期待をしましたか。
村石:e-dashさんに対してはやはり、プログラムの一番の狙いである「見える化」に最も期待をしました。「e-dash」は、電気やガスの請求書をアップロードするだけでCO2排出量の算出・可視化ができるので、手間がかからず使いやすいと感じています。
また、e-dashの担当者に初めてお会いしたとき、「排出削減についても幅広く提案します」と力強くお話していただいたことが、とても印象に残っています。「見える化」の先の削減のサポートまでお任せでき、他の自治体や企業の先進事例も学ばせていただくことができそう、と感じられた点も連携の決め手になりました。
八十二銀行さんに期待したのは、地元企業とのネットワークです。参加企業5社のうち3社は市が主催する産学連携の研究会などで直接声がけした企業ですが、残り2社は八十二銀行さんの取引先企業でした。市と直接のお付き合いのない企業に参加してもらえたのは、八十二銀行さんのご協力があってこそです。
──プログラム第1期は2023年3月に終了し、参加企業全てがScope 1・2(自社のCO2排出量)の可視化を達成しました。市としては、CO2排出量の可視化という点で、他にどんな成果を感じていますか。
村石:参加企業から最も多く寄せられている感想は「見える化」によって「社員の意識改革が進んだ」という声です。市がいくら「省エネしましょう」と啓発してもなかなか響きませんが、具体的な数字が見えるようになるだけで「やらなければ」という気持ちはこれほど後押しされるのだと、私たちも勉強になりました。
同じく「意識の変化」というところでは、各社とも「なぜ脱炭素に取り組まなければならないのか」という点に大分腹落ちできたのではないかと考えています。
市内では取引先企業からCO2排出量の情報開示や削減を求められている企業はまだ少なく、危機感もそれほど高まっていませんでした。しかし、プログラムを通して、e-dashさんが「脱炭素化の進展で企業を取り巻く状況はこれほど変わってきている」ということを繰り返し伝えて下さったことで、意識が醸成されてきたと感じます。
──CO2排出量の削減についての成果はいかがでしょうか。
村石:各社とも削減への具体的な道筋が描けるようになってきたと考えています。
可視化が進み、次のステップの排出削減に目を向け始めた時点では、ほとんどの企業が「脱炭素=省エネ」という発想で、研究会でも省エネによる削減施策ばかりが話題に上がっていました。しかし、研究会が回を重ねるごとに「省エネによる削減だけでは減らせる範囲に限界がある」という課題感が徐々に共有されるようになってきたんですね。
そんな時にe-dashさんから、非化石証書の活用やカーボン・クレジットによるオフセットなど、これまで知らなかった削減手段をご案内いただきました。まずは省エネや創エネをし、それでも難しい部分は非化石証書で実質再エネ化したり、カーボン・クレジットを使ってオフセットしたりする、という基本的な考え方を理解できたのは参加企業にとって大きな収穫だったと思います。
実際に、1社が太陽光パネルの設置に向けて本格的に動き出しているほか、さらに1社がe-dashさん経由で非化石証書を調達中です。具体的なアクションにつながり、大変嬉しく思います。
──須坂市からの補助金は終了しましたが、参加企業5社のほとんどが現在も「e-dash」を継続利用して下さっています。各社の今後の削減への取り組みも、引き続きe-dashがご支援していきます。

──2023年9月からは、新たな企業5社が参加するプログラム第2期が始動しました。第1期の成果を踏まえて、この取り組みをどう発展させていきたいですか。
村石:まず、第1期から発展させた点として、第2期では対象企業の門戸を製造業だけではなく他の産業にも広げました。実際に幼稚園や建設会社などが参加しており、こうした企業を起点に、より多くの産業に脱炭素の取り組みを波及させたいと考えています。
さらに、第2期では参加企業が情報や意見を共有する場をさらに広く設けていきたいです。第1期の研究会では、1社が太陽光パネルの導入を検討したところ、他の企業も検討を始めるなど、企業同士が良い意味で切磋琢磨する様子が見られました。第2期でも引き続き研究会を設けるとともに、第1期と第2期が交流する場も作ることで、さらなる相乗効果を期待したいです。
また、「見える化」されたデータも蓄積されてきているので、企業同士で互いのデータを比較・分析しながら、新たな削減のヒントも導き出せたら良いですね。
──産業連携開発課の核となるミッションは地域の産業振興だと思います。脱炭素の取り組みを通して、どのような地域産業の未来を実現していきたいと考えていますか。
村石:脱炭素は「やらなければならないこと」ではありますが、別の視点から見れば、須坂市内の企業の価値やイメージの底上げに繋がるチャンスでもあると考えています。
須坂市は果物栽培が盛んなので、たとえば「カーボンニュートラルな方法で生産された果物」などと打ち出せば、ブランド価値をさらにあげることができるかもしれません。
また、企業の脱炭素への取り組みは、優秀な人材の呼び込み、ひいては企業の業績向上に直結する時代です。当課では市内企業と連携して高校生向けの職業体験プログラムを企画しているのですが、高校生と接していると、若い世代が就職先企業のSDGsや脱炭素への取り組みをいかに重視しているかを実感します。
今後もe-dashさんや八十二銀行さんの力をお借りしながら、脱炭素に取り組む意味・意義をしっかり伝え、脱炭素支援を前進させていきたいと思います。
長野県須坂市
市役所所在地:〒382-8511 長野県須坂市大字須坂1528番地の1
水や、緑などの自然資源に恵まれ、環境都市としてまちづくりを進めている。業界別の人口分布では製造業従事者が最も多い地域。
URL:https://www.city.suzaka.nagano.jp/
企業情報
会社名
長野県須坂市
所在地
〒382-8511 長野県須坂市大字須坂1528番地の1
業界
自治体
事業内容
水や、緑などの自然資源に恵まれ、環境都市としてまちづくりを進めている。業界別の人口分布では製造業従事者が最も多い地域。
あらゆる企業が、自社に適した道筋で
事業の成長と脱炭素化を両方実現できるように。
ご希望のお取り組み内容に応じたご提案が可能です。
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